VACHERON CONSTANTIN
2023年 8月4日

ヴァシュロン・コンスタンタン、大人の時計の嗜み
第一回

現在の時計の人気カテゴリーはスポーツが主流だ。ダイバーズウォッチやクロノグラフといった専用機能を備えたものから、スポーティテイストを特徴にするものまで幅広い。なかでもとくに人気の高いラグジュアリースポーツと呼ばれるタイプは、一体型ブレスレットを特徴にした躍動感あるデザインに、シックなエレガンスを併せ持つ。シーンを問わないインフォーマルなスタイルとデイリーユースの実用性を両立し、いわばファッションにおける高級スニーカーのような存在でもある。 しかし社会的にも認められた大人がスニーカーばかり履いていられないように、時計もスポーツ系だけでは充分ではない。そこでお薦めするのがドレスウォッチだ。

Text by : 柴田 充

モダンドレスウォッチという選択 /「パトリモニー」

ドレスウォッチというと昔から変わらない古典的なスタイルを思い浮かべがちだが、それは早計だ。いまや時代の感性で磨きをかけ、現代的なライフスタイルを演出する。その代表格がヴァシュロン・コンスタンタンの「パトリモニー」なのである。

「パトリモニー」は2004年に発表され、1755年に創業したヴァシュロン・コンスタンタンにおいてはその歴史はまだ浅い。しかしモチーフになったのは1950年代のモデルから着想を得ており、そこには連綿とブランドの伝統が息づいているのだ。 ちなみにヴァシュロン・コンスタンタンには、「トラディショナル」というコレクションもある。これは当初、派生ラインとして2007年に登場。同じドレスウォッチでも1930〜50年代のモデルに着想を得たシリーズであり、よりクラシックなデザインテイストを特徴に、2017年に単独のコレクションに独立している。

では「パトリモニー」のデザインを見てみよう。ベーシックなラウンドケースはベゼル幅を抑え、ゴールドケースとも相性のいいオフホワイトの文字盤が広がる。インデックスは、四つの楔形をアクセントにしたバータイプに、ミニッツトラックにはドットを配する。ややシェイプしたペンシル針に、分針や秒針は先端を文字盤に沿ってカーブを付けたエレガントなスタイルだ。

写真:よりフォーマルな雰囲気を感じさせる手巻きモデル
パトリモニー・マニュアルワインディング「81180/000R-9159」

こうしたデザインが生まれた背景には1950年代という時代がある。戦後復興とともに世界は活気を取り戻し、時計も新たな時を刻み始めた。自動巻き機構や精度追求といった技術革新の一方、デザインでも新世代の息吹が与えられた。とくにバウハウスの流れを組むモダニズムは、伝統様式に人間工学を注ぎ、合理性と機能美を追求。源流であるウルム造形大学にはスイス出身のマックス・ビルも1953年の創設に参加し、革新的なデザイン思想は時計の世界にも多くの影響を与えたのである。

時代の薫陶を受けた「パトリモニー」もまた装飾性をそぎ落としたミニマリズムに、洗練された美しさを漂わせる。デザインはシンプルであればあるほど難易度は高く、培ってきた経験値や美学が発揮されるといえるだろう。まさに歴史ある名門ならではの妙味だ。
しかしいかに当時の先進デザインであっても、ヴィンテージを再現しただけでは現代のライフシーンやファッションにそぐわない。そこでモダニズムがつねにモダンであり続ける精神であるように、スタイリッシュな個性を与えることも忘れない。 そのひとつが40㎜径というケースサイズだ。当時のメンズドレスの主流が35㎜以下だったことを考えればかなりの大径だが、これに8.55㎜という薄型をくみあわせることで、周囲に印象づけるアピール度を損なうことなく、着けていることさえ忘れてしまいそうな心地良いフィット感を両立した。大径と極薄という対極を調和させた、絶妙のバランスである。

さらに注目したいのが、センター秒針と小窓表示のカレンダーだ。通常フォーマルに代表されるドレスウォッチは、秒針やカレンダーを省くのが定石だ。しかし「パトリモニー」はあえてこれを採用し、普段使いに応える実用性を備える。高い視認性はもちろん、けっして美観を損ねることなく、とくに長く繊細な秒針の揺るぎない動きに精度への信頼も増すだろう。

こうした「パトリモニー」の魅力は世代を超えて幅広く支持されている。アイアイイスズのヴァシュロンコン・スタンタン担当スタッフによると、憧憬ブランドの王道の1本であり、長く愛用できる上質なデザインにもしなやかな艶が感じられるところが人気なのだとか。なかにはビジネスではスマートウォッチを着けていても、ディナーでは「パトリモニー」に着け替えたり、若き医学生が将来を考えた時、名門の信頼感や変わらぬ価値から求めたこともあるという。時計上級者ばかりでなく、初めての1本に選ぶことも少なくない。気品漂う優美なスタイルは女性にもふさわしく、ペアで揃えるのもお薦めだ。

ラグジュアリースポーツが高級スニーカーであると述べた。ならば「パトリモニー」はセットアップスーツと呼びたい。タイドアップしてもいいし、インナーはスキッパーのようなスポーティなシャツにも合う。コーディネートの自由度はむしろジャケット以上だし、スーツであっても堅苦しさは感じさせない。
「パトリモニー」の名は“遺産”という意味を持つ。もし手元の時計を並べてみて、それがスポーツウォッチばかりだとしたらぜひ加えて欲しい1本だ。モダンドレスウォッチという新たな存在感はコレクションをより充実させ、そしてその相乗効果は時計の楽しみの幅をさらに広げてくれるだろう。


パトリモニー ・オートマティック
85180/000R-9248

端正な顔立ちにシェイプされたラグがすっきりと伸び、装着感も優れる。 搭載するCal.2450 Q6/3は、毎時2万8800振動に約40時間のパワーリザーブを備える。 自動巻き。18KPG(直径40mm)。3気圧防水。
価格:4,576,000 税込

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パトリモニー ・オートマティック
4110U/000R-B905

ブラッシュピンクのグラデーションのカラー文字盤に、48個のラウンドカットダイヤモンドをセットする。リーフ針の時分針や丸みを帯びたリュウズがフェミニンを演出する。インターチェンジャブルストラップを付属。自動巻き。18KPG(直径36.5mm)。3気圧防水。
価格:4,136,000 税込

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柴田 充 / Mitsuru Shibata

ライター/時計ジャーナリスト。コピーライター、編集者を経て、フリーランスライターに。広告制作や編集他、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。