WATCH 解説

新生HYTが創上げる時計の新たな可能性 〜液体モジュール編〜

前回までのおさらい

苦悩の末、遂に液体モジュールの入手に成功したヴィンセント。その開発を担ったのは PRECIFLEX(プレシフレックス)というスイスの医療機器メーカーでした。時計分野とは全くの畑違いである彼らは、いったいどのようにして液体モジュールの開発に成功したのでしょうか。

 

 ヴィンセントは様々な液体による時刻の表現方法を思案した結果、下記のような時刻表示を考案します。液体モジュールによる時表示とそして機械式ムーブメントによる分表示。まさしくヴィンセントが思い描いていた液体と機械式時計の融合が実現した夢のモデルです。





ですが、液体が通る中の管であったり液体そのものを押し出すための構造など、かつて時計業界が触れたことのない領域へ足を踏み入れる為には、プレシフレックスのようなその分野の最先端を行く、全く新しい企業との協力が必要不可欠だったのです。

 

さて、プレシフレックスはこの液体モジュールの開発の為に液体を通すためのガラス管(キャピラリー)の製造から着手しました。時計の内部に収めることの出来る面積を考えると、極限まで小さく薄く、かつ絶対に液体が漏れて内部機構に不具合をもたらす事がないよう完全な気密性を要求されるなど開発には相当な精密さが必要となります。

 現在のプレシフレックスでは専用の機械によって、厚みに差が出ないよう均等に熱入れが行われ、最適なトルクが加わることでクオリティに差が出ない加工が実現できております。





この特殊なプレキシガラスで出来たキャピラリーは僅か内径が0.4mmほどしかなく、42もの工程を踏んで製造されております。また内部には50マイクロリットルの流体が含まれるのですが、実はこの流体、色のついた流体と透明な流体の2つが決して混ざり合う事なく存在しております。





上記の画像でしたら緑の流体と透明の流体が、ポンプの役割を担う中心の2つのパーツがそれぞれ圧力を加えることで、時刻の表示を実現しているということになります。ちなみにこの2つのパーツはベローと呼ばれ、人間の髪の毛の1/4しかない特殊合金で出来ておりあのNASAが開発した宇宙工学部品が使用されているというから驚きです。

さらには、サーマルコンペンセーターと呼ばれる温度補正機構が搭載しており、膨張した液体により時刻がずれないよう自動調整される仕組みとなっております。





これにより-40°~60°という環境においても精度を保つ事ができます。





まさに、スイスの医療技術と宇宙工学を織り交ぜたかつてないモジュールが完成しました。あとは、これを正しく連結・連動することの出来る機械式ムーブメントを作成することが出来れば人類史上見たこのない夢の時計が完成します。

ですがそのようなムーブメントを作れる会社があるのでしょうか。次回はムーブメント編になります。また見てくださいね。



HYT / エイチワイティー

2012年、スイスのヌーシャテルを拠点として設立された時計ブランド。液体を用いて機械式時計で時刻を表示するという途方もないアイデアを具現化するため、時計・医療・化学・物理学・宇宙工学等の様々な分野のプロフェッショナルが集結し、業界初の液体と機械式時計を融合させたリストウォッチは誕生しました。

この記事の監修者

山口 喬之(やまぐち たかゆき) 役職: セールススタッフ

大学時代に機械式時計の芸術性に心を打たれ、時計業界で働くことを決心。スタッフとしてだけでなく一時計ファンとしての対応を心がけている。

NEW COLUMN

RANKING