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スイス時計業界に激震【4月10日 追記】

今年も、時計業界最大の見本市「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」が華やかに開催されました。世界中から多くの時計愛好家、ジャーナリスト、バイヤーが集まり、各ブランドが誇る最新作や革新技術が披露されるこのイベントは、まさに時計界の一大祭典です。今年も注目の新作が多数登場し、会場は終始熱気に包まれていました。

中でも、ロレックスが発表した新型のランドドゥエラーは、完全に新設計されたムーブメントを搭載しており、機械式時計の限界に挑む意欲作として高く評価されました。また、長らくファンの間で再登場が望まれていた「カラトラバ 6196P」も復活を遂げ、その美しいデザインとコンパクトなサイズ感が時計ファンを沸かせました。

(写真:ブルームバーグ)

しかし、そんな華やかな見本市の最中に飛び込んできた一報が、時計業界全体に大きな衝撃を与えました。それは、アメリカのトランプ前大統領による「相互関税」の導入発表です。彼はスピーチの中で、特定の貿易相手国が米国製品に対して高い関税を課している場合、アメリカも同様に報復関税を課すと宣言しました。この突然の発表に、各国の業界関係者や投資家たちは戸惑いを隠せませんでした。

相互関税とは、相手国がアメリカ製品に高率の関税を課している場合、同等の関税をその国の製品に対して課すという政策です。つまり、相手国の関税水準に応じて、アメリカも関税を引き上げるという仕組みです。発表通りの関税率の場合、日本の時計には今後24%の関税が課されます。決して低い数字ではありませんが、スイス製時計に対しては、なんと31%の関税が適用され、これはEU製品(20%)よりもさらに高い水準です。

ここで注目すべきは、時計が自動車などと違い、米国内でほとんど生産されていないという点です。つまり、関税を引き上げてもアメリカの国内産業を守るという効果は期待できません。仮にスイスブランドがアメリカで時計を製造する選択をしたとしても、その時計はもはや「スイス・メイド」とは呼べなくなってしまいます。「スイス・メイド」という表示は、時計の価値や信頼性を支える大きな要素であり、それを失うことはブランドにとって致命的です。そうなると、果たしてその時計を消費者が買うのかという疑問が浮かびます。

もし4月9日の関税発動が現実のものとなれば、アメリカはスイス時計の最大の輸出先(約17%を占める)であるため、その影響は計り知れません。ロレックス、カルティエ、オメガといった世界的ブランドは、対応策の検討を余儀なくされるでしょう。単純に「関税分を価格に上乗せして販売する」という手法では、消費者離れを招きかねません。米国内の販売価格が仮に30%上昇すれば、高級時計の購買意欲は確実に落ち込みます。一方で、輸入側がすべての負担を抱えるのも現実的ではなく、結果として輸出側も利益を削って価格上昇を抑えるという形になると予想されます。

しかし、それ以上に懸念されているのが、アメリカ国内でのインフレ加速です。物価全体が上昇すれば、実質賃金は下がり、消費者の可処分所得は減少します。そうなれば、高級時計のような嗜好品は真っ先に「買い控え」の対象となるでしょう。現在のような不安定な経済状況下では、たとえブランド側が価格を据え置いたとしても、購買心理そのものが冷え込む可能性があるのです。

日本ブランドのセイコーやシチズンなども例外ではありません。これらも24%という関税対象となるため、同様に輸入側・輸出側で利益調整を行いながら価格対応を迫られるでしょう。また、為替の影響も無視できません。日本円やスイスフランが対ドルで高くなれば、その分輸出側のコストが増し、価格調整がさらに難しくなります。

さらに混乱に拍車をかけたのが、関税発動をめぐる情報の錯綜です。4月7日の夜、一部報道で「関税措置を90日間一時停止する方向で調整中」と伝えられ、これを受けてNYダウをはじめとする株式市場は急騰。しかしその後、これが誤報だったと否定されると、今度は一転して急落。株価は乱高下し、市場は不安定な動きを見せました。

このように、時計業界は今、大きな転換点に立たされています。4月9日に本当に関税が発動されるのか、あるいは見送りとなるのか。すべての関係者が不安と期待を抱えながら、その行方を見守っている状況です。スイス時計の未来、日本メーカーへの影響、そして消費者心理の変化、これらすべてが、今後数ヶ月の動向に大きく左右されることは間違いありません。時計業界にとって、まさに嵐の前の静けさといったところでしょう。

【2025/4/10 追記】 相互関税上乗せ分は、中国を除いて90日停止すると発表がありました。10%の基本税率部分は継続するので、影響が全くないとは言い切れないです。今後、90日間で各国と交渉を進めるのでしょうか?

この記事の監修者

新田 役職: セールススタッフ

二十代は東京で某百貨店の時計売場に勤務。地元に戻り当時珍しかったブライトリング正規販売店のアイアイイスズに惚れ込み入社。以来、数多くの時計を見ております。時計選びに迷ったらお声掛けください!

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